02-13 旧文明の廃墟

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「よし、到着。皆いるな」

 ダンジョンの空を飛び、アキトたちは反転した大地に到着する。種族が鷹であるロッシュは翼をしまうと、ジャケットの留め具を戻しながら周囲を確認する。

「さっきまでいた場所と上下逆だけど、重力も反転しているから違和感ないね」

(SFによくあるシリンダー型コロニーの反対側って、こんな感じなのかも)

 アキトは自分たちが通ってきた空を振り返るように見上げる。大部分は魔力の霧に覆われているが、わずかな隙間の先には最初にいた大地が小さく見える。

「それにこの場所、さっきまでとは全然違う」

(ここは元々市街地で、異界に飲み込まれて廃墟になったのかな?)

 先ほどまでの岩場とは違い、周囲には明らかに人工物の建物が並んでいる。大部分が風化して朽ち果てており、絡みついた植物も枯れている。シーリスは周囲を眺めながら、かつて人が住んでいたであろう情景を想像する。

「ふむ、どうやら“当たり”のようだ」

「当たり?」

「これを見たまえ。旧文明に存在した、ある国の紋章だ」

 廃墟の中を進んで行くと、ゲルト教授が柱に残された紋章を見つける。アキトに語る彼の声には嬉しさがにじみ出ている。それはダンジョンに来た目的でもある、旧文明の証であった。

「かなり削れてるが、こっちにあるのは魔法陣か?」

 周囲を警戒していたイシュテナも、ある廃墟の壁に模様があるのを見つける。表面の植物をどけると、朽ち果てて欠損している魔法陣が姿を現した。

「防衛用の魔法陣である可能性が高い。朽ちているとはいえ、不用意に発動させないように」

「了解。見つけたら記録していけば良いんだな」

「それで頼む」

 その魔法陣で発動する魔法が不明な以上、用心するに越したことは無い。ゲルト教授の注意を聞き、イシュテナは記録石に見つけた魔法陣を記録する。

「魔法陣を使う旧文明の国家……第1次魔法文明の頃か?」

「それも神暦7000年代末期の文明崩壊直前あたりだ」

 現代は第2次魔法文明と呼ばれ、それ以前を旧文明と総称している。その最後は7000年代末期に滅びた第1次魔法文明であり、当時は魔法陣による魔法技術によって発展していた。

 ロッシュの推測は当たっており、ゲルト教授が紋章の国家が存在した年代を補足する。

「先ずは拠点を確保して、そこから周りを見て行こう」

「とっくに昼も過ぎてるしな」

 太陽のないダンジョン内では時刻を推測することができない。ロッシュは通常より大きい多機能MCカード【携帯端末】で現在時刻を確認すると、ゲルト教授の意見に賛成する。

 アキトたちはマッピングと記録石への撮影をしつつ、廃墟の先へと進んで行く。

……

…………

「白い鳩? もしかして集まって来てる?」

「廃墟の中にもいるな。結構な数だ」

 しばらく進んだところで、どこからともなく白い鳩が集まって来ていることにシーリスとイシュテナが気付く。廃墟の中からも飛び出してきたかと思うと、あっという間に群れとなって空を覆う。

「あの鳩も天界の原種生物?」

「グリントって言う、天使に仕える鳩だ。アイツらは鳩のくせに……ビームを放つ」

「うん。見ての通りだね……」

 上空に群がる白い鳩【グリント】が嘴の先に天使の輪を形成し、彼らに向けて狙いを定める。それを眺めながらアキトはエスクードを形成し、ロッシュはフォーゲルを数羽作って空に飛ばす。

「このままだと的になるだけだ。そこの廃墟に隠れるぞ」

「もう来る。急いで!」

 グリントは天使の輪を収束させると、光り輝く光線【セイントレイ】を一斉に撃ち下ろす。割り込んだフォーゲルが炸裂して周囲に魔力の粒子を散布すると、降り注ぐ光の雨が散乱していく。

 減衰しつつも突破してきたセイントレイを防ぎながら、アキトの合図で近くの廃墟の中へと逃げ込む。

「ゲルト教授、大丈夫ですか?」

「ああ、おかげさまでな」

 散布した粒子の効果は一時的だが、その間にシーリスに手を引かれたゲルト教授が廃墟に避難する。続いてアキトたちも逃げ込むが、グリントの群れは執拗に攻撃を続けている。

「アキト、撃ち落とすからそのまま盾構えてろ」

「……待って、何か来る」

 反撃のためにロッシュはエイビスを形成しようとするが、何かの気配を察知したシーリスに制止される。彼女の言う通り、耳を澄ましてみれば攻撃の音に紛れて足音のようなものが聞こえる。

「これは、かなりデカい奴だぞ」

 近づいてくる物音は、すぐに周囲に響き渡るほどの大きな足音に変わった。グリントの群れも攻撃を止めて上空から様子をうかがっており、新たな来訪者に緊張感が漂う。

「生き物ではないな。ゴーレムか」

 そこに現れたのは廃墟の瓦礫を寄せ集めて作り出されたゴーレム【ルインゴーレム】だった。関節の隙間から鉄骨を覗かせており、高さ5メートル程もある巨体が引き起こす地響きがイシュテナの声をかき消す。

「……」

 ルインゴーレムは頭部にあるモノアイを光らせると、瓦礫を掴んで手の中で細かく砕く。それを合図にグリントの群れがセイントレイを一斉射するが、表面の一部が削れる程度でゴーレムの動きは止まらない。

「魔法陣!? 何の魔法だ?」

 ルインゴーレムが左手の掌を開くと、そこには魔法陣が描かれていた。驚くゲルト教授をよそに、アキトは冷静に魔力で満たされた魔法陣を視る。

「……衝撃波」

 アキトの推測通り、ルインゴーレムが振り上げた左手の魔法陣から衝撃波が発生する。それにより多くのグリントは吹き飛ばされ、残ったグリントも態勢が大きく崩れている。

「ポーッ、ポーッ!!」

 一撃で状況を変えたルインゴーレムは、追撃として掴んでいた瓦礫を豪快に投げつける。周囲にばら撒くように放たれた瓦礫はその質量でグリントの群れを撃墜し、数少ない生き残りも散り散りに飛び去って行った。

『とにかく壁に貼り付いて息を潜めろ。魔力探知に引っかかるなよ』

 ルインゴーレムがモノアイを光らせると、周囲に浮いている魔力の靄が押しのけられるような動きをする。それは探知魔法による魔力放出であると推測し、ロッシュが念話で警戒を呼び掛ける。

(あのグリント、まだ生きている?)

 魔力探知によって何かを捉えたのか、ルインゴーレムが道なりに歩き出す。その先にアキトが視線を向けると、瀕死のグリントが逃げようと地面を這いずっている姿が目に入る。

『……今のうちに、この場を離れよう』

 ルインゴーレムは瀕死のグリントを無慈悲に踏みつぶし、何事もなかったかのように魔力探知を行いながら歩きだす。そのまま角を曲がって姿が見えなくなったところで、アキトたちはその場を離脱する。

――――――――――

 少し離れた場所で、アキトたちは比較的状態の良い廃墟の一室を見つけた。その場所を拠点として食事と休憩を済ませ、必要な荷物だけを持って探索を再開する。

「しかし何でダンジョンにゴーレムが?」

「原種生物じゃないの?」

 シーリスの疑問にアキトが推測を返す。廃墟は静けさを取り戻し、彼らの話し声だけが穏やかに流れていた。

「きちんと骨格を作って、その上に瓦礫を被せてゴーレムを作ってるんだぜ。それにあの魔法陣……どう考えても人工物だよ。自然発生のゾンビやスケルトンの類じゃない」

 異界の魂を用意した肉体に憑依させるゴーレム、漂う魂が死体や周辺物に憑依するゾンビやスケルトン……ロッシュの説明で後者である事が否定される。

「先に辿り着いた冒険者が、後続を排除するために置いたか?」

「根拠は無いけど、誰かがこの一帯を守ろうとしているのかも」

(廃墟にある魔法陣とゴーレムの魔法陣の様式は一致する。これは恐らく偶然ではない)

 イシュテナとアキトの推測をゲルト教授は黙って聞いていた。これまで見てきた数々の魔法陣から、造りだした人物についてある仮説が思い浮かぶ。

(であれば、その正体は――)

「皆、広場に着いたよ」

 ゲルト教授の思考を遮るように、先頭にいたシーリスが広場に着いたことを知らせる。他の場所と比べて周囲の建物の崩壊が著しく、奥にある城門もいたるところに罅が入っているのが見える。

「ここが終点だと思ったが……奥にも何かありそうだな」

(何かおかしい。漂っているはずのマトリクスの断片が、門の奥に視えない)

 空からの進入時はこの場所が終端であったが、地上から見ると門の奥にも立派な城が存在している。イシュテナの見立てとは別に、アキトはこの光景に言い知れぬ違和感を抱いていた。

「この広場を中心に、大きな爆発でもあったみたい」

「魔法陣もたくさん埋め込まれてるぜ。ご丁寧に、“使える”ように綺麗にしてある」

 シーリスとロッシュもこの広場の異様な状態に気付く。城門も含め、建造物の上半分が吹き飛んだように崩壊している。残った部分も風化が進んでいるが、魔法陣が埋め込まれた部分だけは綺麗に整備されていた。

「実際に“使われている”と見て間違いないだろう。魔法陣から伸びている導線。その行先は――」

 壁の魔法陣から伸びている導線を、ゲルト教授が指でなぞりながら追っていく。導線は地面の石畳の模様に紛れながら、ある場所へと繋がれているのが分かる。

「城門の紋章……その下には魔法陣が隠されているはずだ」

 ゲルト教授が指さした先に、アキトたちは視線を向ける。上半分が吹き飛んでいるとはいえ、門の開閉部分は残っている。

「誰かいる。冒険者……ではないな?」

 最初に気付いたのはイシュテナだった。城門の近くにある柱の陰から何者かが姿を現し、風も吹かない静寂の中に軽い足音だけが響く。

【設定紹介】

【プロフィール】

名前ダンジョンのグリント
分類原種生物
種族グリント
属性天属性
特技天使の輪、セイントレイ

概要

天界系ダンジョンの廃墟に生息していた原種生物。
天使に仕える白い鳩で、その外見とイメージから縁起が良いとされている。
しかし実際には原種・野生を問わず、侵入者を見つけると群れ総出でセイントレイを容赦なく浴びせるほど縄張り意識が強い。

天使の輪

天使系種族が生成する、魔力で構成された光輪。
瞬時に聖光に変換することができ、直接ぶつけたり武器に纏わせたりと様々な用途に使用される。
この聖光は繋がりの弱い魂を肉体から切り離す効果があり、アンデッド系全般に対して致命傷を与えることができる。
原理上はゴーレム系にも有効だが、装甲を突破できなければ効果は発揮できない。

セイントレイ

天使の輪を収束して聖光のビームを放つ。
威力はシールドで防げる程度であるが、弾速と射程に優れるため命中精度が高い。
連射性もそれなりにあり、グリントはこれを集団で連射してくる。

初登場

第2章13話:廃墟に侵入したアキトたちの迎撃


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