「まずは私から報告させてもらうよ」
王都アルヴリアで行われている魔王軍の会議で、ロザリアが最初の報告者として名乗りを上げる。
――ロザリアの報告
王都アルヴリア襲撃後、脱出した第1王女を追ってログラスの町へ移動。そこでマリクを加えた追跡部隊を編成し、駐屯地の総攻撃に参加する。
駐屯地の司令官を討ち取り、駐留王国軍が降伏勧告を受け入れて制圧。その際、第1王女の護衛部隊を発見し、ゲシュペンスト隊の一部を部隊に加えて追跡を開始する。
国境を越えて霊の国に入り、数度の攻撃を仕掛けるも第1王女の確保に失敗。その途中でマリクが戦死し、第1王女も雪崩に巻き込まれて死亡する。
任務中、天候不順で原住民の村に滞在、そこで霊界の門があると思しき場所の情報を得る。
「霊界の門だと、それは本当か!?」
「ああ、霊の国の中でも特に異界化しやすい場所だそうだ。確率は高いはずだ」
重界と異界を繋ぐと言われている門【異界の門】のうち、霊界に対応する門の情報に魔王ガリウスは歓喜の声をあげる。この異界の門を探すことも、魔王軍がアルヴヘイム王国へ侵攻した理由の1つだった。
「では、次は私ですね」
――イリーナの報告
王都アルヴリアの襲撃と同時に、部隊を率いてログラスの町に侵攻。駐留王国軍の数が少なかったこともあり、最小限の損害で制圧する。
第1王女が向かっているとの報告があり、確保するために待ち伏せを決行。その際、マリクの独断で捕虜及び住民を殺害してリビングデッドにするも、作戦は失敗する。
同日の夕刻に到着したロザリアの部隊と人員の交換を行い、ログラスの町の占領統治を開始。現在の穀物の備蓄状況を把握し、各地への輸送及び住民による農業を再開する。
「港町サースレイにも輸出待ちの物があります。それと合わせれば備蓄量としては十分です。生産量については現時点での試算になりますが、前年の70%以上を維持したいところです」
「反抗勢力の規模によっては容易に割れる数値ですね。とにかく労働力の確保が急務になります」
「一時的にリビングデッドやゴーレムで対応するという手もありますが、マリク君ほどの術者はそうそういませんし……」
イリーナの報告にニーベルとファイマンが懸念事項を口にする。議論すべきことを洗い出したところで、グライヴの報告に移る。
「あ、やっと俺の番か」
――グライヴの報告
王都アルヴリアの襲撃と同時に、部隊を率いてエディントン工業区に侵攻。駐留王国軍を半壊させるも、抵抗が激しく包囲した状態で膠着する。
翌日、王都アルヴリアからの援軍と交代で城塞都市ミンガムへ逃げた第1王子を追跡。籠城した王国軍との戦闘を開始し、その間に駐屯地襲撃に加勢する。
王都アルヴリアで負傷箇所の治療を行い、即座に城塞都市ミンガムへ帰還。援軍を加えて再度侵攻するも戦線は膠着。約1か月の攻防戦の末に、第3王子を捕らえて制圧する。
結果、第2王子は戦死し、第1王子を含む残りの王族は西側の国境都市ファルベストへ逃亡する。
「グライヴが真っ二つにしなければ、第2王子を捕まえられたのにのう」
「命を懸けて戦場に出て来た奴に、手加減なんてできるかよ!」
ユイリンが第2王子を捕らえるチャンスを逃したことに愚痴をこぼすが、当のグライヴは聞く耳を持つ気のない様子だった。
「レイチェル様、起きてください。あなたの番ですよ」
「ふわぁー。え、ボク? ……たくさんのおもちゃで遊べて面白かったよ」
「すいません。代わりに私が報告します」
グライヴの報告も終わり、ファイマンが会議に飽きて居眠りをしていたレイチェルを起こす。しかし彼女のために書き起こした原稿は無視され、まともに報告できそうにないので彼自身が代行することとなった。
――レイチェルの代わりにファイマンが報告
潜伏させた部隊による内部からの奇襲で王都アルヴリアを制圧し、残りの部隊が周辺地域の通信妨害を実施。その後、エディントン工業区に援軍を送り、王都制圧の情報を伝えて降伏勧告を行い占領する。
他の各都市にも降伏勧告を行い、受け入れを確認して速やかに占領。港町サースレイのみ抵抗があったが、ゲシュペンスト隊の協力もあり数日後に制圧した。
現在は占領した各都市の駐留王国軍の武装解除及び治安状況の監視を行っている。
「しかし、港を抑える前に何隻も船が出ています。脱出したのが一般市民だけなら良いのですが……」
「ある程度は想定済みです。今は完全封鎖を徹底してください」
港町サースレイでの出来事に不安になるファイマンに、ニーベルは今やるべきことを伝えて落ち着かせる。
「さて、私からの報告ですが――」
――オルクスの報告
国境都市シェイフィードの領主を暗殺し、潜入工作によって速やかに占領。周辺地域の通信妨害を行い、抵抗する駐屯地を襲撃して籠城させる。
その後、ロザリアとグライヴの部隊と共同で駐屯地を制圧。ゲシュペンスト隊を分散して各部隊へ派遣する。
「連邦軍に進軍の気配はありません。向こうもしばらくは様子見でしょう」
ゲシュペンスト隊はオルクスを隊長とする特殊部隊であり、仮面と黒いマントで身を包んだ素性不明の隊員で構成されている。彼らの一部は国境都市シェイフィードに残り、セレスフィルド連邦の動向を監視している。
「最後は私か……たいして報告することでも無いが、研究設備の移設は完了した。すでに稼働もしている」
研究開発部門を統括するアデリナの報告が終わり、事前に報告を受けていた魔王ガリウスとニーベル以外にも全員の活動報告が行き渡る。
「……では、これより諸君らに次の任務を言い渡す」
ここまでの報告を踏まえて、魔王ガリウスが次の任務を幹部たちに命じる。侵攻して制圧した次は基盤固めの段階になるため、その内容は戦闘が主体だった今までとはまた違うものだった。
「まずは王国軍の監視及び戦線の維持だが、城塞都市ミンガムに駐留している部隊に引き続き行ってもらう」
「ってことは俺の担当か……守りは性分じゃねえんだが」
グライヴは自身の担当に不満を持つが、魔王ガリウスの決定には素直に従う。
「占領した都市には治安維持組織を設立する。ロザリアとレイチェルはその統括してもらう」
「となると、最初にやることは各地の視察だね」
「やったー、お出かけだー!」
ロザリアの行動指針に、王都アルヴリアに飽きていたレイチェルが喜びの声をあげる。
「同時にイリーナとファイマンが、生産活動の再開と物流網の再構築を行う」
「それについても各都市の情報が必要ですね。ファイマンさん、現地視察を頼めますか?」
「もちろんです。ありがとうございます」
レイチェルを心配していたファイマンに、彼女と同行できる仕事をイリーナが依頼する。
「アデリナはキマイラの生産と兵器開発と並行して、霊界の門の調査に向かえ」
「霊の国か……何があるか楽しみだ」
研究所に籠ることの多いアデリナもまた、霊の国へ行けることに内心で喜ぶ。
「国外については居場所が判明している虚無の魔導士を優先する。ユイリンはラディウス法国に潜入し、彼女の周辺を探れ」
「イヒヒ、50年前の恨みを晴らそうじゃないか」
氾濫戦争で虚無の魔導士テトラ・ニヒルスを知るユイリンは、50年越しに雪辱を果たせることに奮起する。
「ネクレスとオルクスは各地に散らばる氾濫軍の残党と接触……それとヴァージニア・グルードの捜索だ」
「先代魔王の妻ですか。せめて生死だけでも確定させたいところです」
「叶うなら、生きてお会いしたいところですな」
あまり期待していないネクレスに対し、オルクスは先代魔王ギルガノスの妻であるヴァージニアと再会できることを願う。
「それで、アタシは何をすれば?」
幹部たちそれぞれに指令が下されたが、その中にミランダは含まれていなかった。わざわざこの場に呼び出された理由もいまだに不明なため、彼女は思い切ってその疑問を口にする。
「ミランダにはアルヴヘイム国王になってもらう」
「――!?!?」
魔王ガリウスの言葉にミランダは驚きのあまり言葉を失う。それは他の幹部たちも同様であり、会議室が沈黙に包まれる。
「捕らえた第3王子レイモンド・F・アルヴヘイムを新たな国王として即位させます。“現アルヴヘイム国王”が直々に戴冠式を執り行うのですから、正当な王位継承です」
「マジかよ……町長のオッサンの次は、国王のオッサンに化けろってことか」
「そのために死体は残してあります。報道の準備も進めていますので、当日までに完璧に仕上げてください」
「何でそんなことするか知らねえけど、責任重大じゃねえか」
ニーベルからの説明を受けて、ミランダは自身に課せられた重責を知る。
「なるほど、これで俺たちはテロリストからクーデターの成功者だ」
「彼の存在は国内の反乱抑止になりますし、内政干渉となるので周辺諸国も介入に二の足を踏むでしょう」
「軍の再編も含め、統治政策については私が中心となって行います」
グライヴとネクレスが第3王子を王位に据える狙いを見抜く。彼には傀儡の王として、ニーベルの統治政策を広く国民に受け入れさせる役目がある。
「これで計画の第1段階が完了する。各自、次の任務に移れ」
アルヴヘイム王国への侵攻は魔王軍にとっては始まりに過ぎない。目的を達成するための次なる計画が決まり、魔王ガリウスが会議の終わりを告げる。
「我らが理想郷のために……諸君らの健闘を祈る」
――神歴9102年2月14日
アルヴヘイム国王第3王子レイモンド・F・アルヴヘイムの戴冠式が執り行われた。これにより現国王は退位することになり、新国王は擁立した魔王ガリウスに公爵位を授けて筆頭大臣に任命する。
さらに第1王子ウィリアム・L・アルヴヘイムの王位継承権を剥奪し、現王国軍の解体と魔王軍を中核とした新王国軍の再編が宣言された。
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